隠された意味には意識的なものと無意識的なものがある。意識的なものとして例えば『チャップリンの独裁者』でヒムラー率いる軍隊はナチスのハーケンクロイツ(卍の逆にした印)に似た腕章“××”をしているが、これ は英語で“double cross”といって「ペテン」の意味を表す。英語を知っている人には解るだろうが、それ以外の日本人などには分かりにくいものである。ヴィクトル・ エリセ監督の『みつばちのささやき』にもこうした記号があふれていた。いつかまとめてみるが、その多くがスペイン内戦とフランコ将軍に関することであった。
文学や映画を読み解くのはそうした意味を明らかにすることだが、問題は作家さえも意識していないものが記号として表れることがある。それを「署 名」(signature)ということがある。例えば、ゴッホの絵に少しでも関心を持つ人は初めて見た作品でもゴッホのものか否か分かる。ピカソだって、手塚治虫だってそうだ。作品に本当の署名がなく ても誰だか分かるものである。全部を見ることもない。目だけを見て誰の作品か当てることができる。日本人なら誰でも漫画の目を見ただけで誰の作品か言い当てることができる。