第12回 自学自習ゼミ

情報社会におけるコミュニケーション


2002年7月12日 石川 富康

ねらい

社会の情報化にともない、社会的なコミュニケーションがどのように変容してきたかをとりあげる。高度に情報化した社会における、情報の受発信の形態や、メディア、コミュニケーションツールなどを具体的に理解する。情報倫理や情報危機管理などもとりあげる。

社会の情報化にともなうコミュニケーションの変容

相手に意志を伝えたいときには何らかの手段が必要になります。この手段のことをメディア(媒体)といいます。情報化以前から使われてきたメディアとしては口(おしゃべり)や手紙、電話などがあげられます。また、新聞やテレビ、ラジオなど大衆を相手とするマスメディアもメディアのひとつです。社会の情報化によって、コンピュータのネットワークを用いたコミュニケーションが登場しました。この新たなメディアはコミュニケーションの形にどのような変化をもたらしたのでしょうか。

情報化によって生まれた代表的なメディアは「インターネット」でしょう。このインターネットによって、いつでも、どこでも、誰とでも、というような形で、情報伝達における諸制約を乗り越え、より簡便に、より広範囲にコミュニケーションが取れるようになってきました。しかしながらそのようなコミュニケーションの利便さは、関係を容易に絶つことをも可能にしたため、逆に人間関係を貧相にしてしまうともいわれています。また、匿名性の強いメディアであるため、倫理的問題もあります。さらに、情報の流出やコンピュータウイルスなどに対する危機管理も重要になってきています。

つぎからは実際の例を見てその変容の様子を見てみましょう。


メディア、コミュニケーションツール

情報社会におけるメディアやコミュニケーションツールは技術の向上につれて、多種多様なものが生まれてきています。ここでは、そのうちの代表的なもの7つを簡単に紹介します。

1. Webページ(WWW)

インターネットという言葉を聞いて一番に連想されるメディアでしょう。このページもWebページです。また、 i-mode など携帯電話でもWebページを閲覧できます。情報発信者から複数の受信者に向けて一対多のコミュニケーションがとられるので、この点ではマスメディアに類似しているともいえます。

WWWによる情報発信には次のような特徴があります。

この特徴によって、小さな企業でも広範囲な広報活動を行うことが可能になりSOHOインターネットショッピング など新しい形式の企業やサービスも誕生しています。また、過疎化の進む地方自治体の広報活動にも利用されています。個人的なホームページの開設も盛んに行われています。 その意味では最も言論・表現の自由が守られている場とも言えるかもしれません。

ありとあらゆる情報が流れているため、欲しい情報をネットワーク上で手に入れられる可能性が高くなった一方で、無益有害な情報も多く流れているので、情報を正しく選択する能力が必要となってきます。

また、WWWには次のような問題もあります。

侵入者が発信者のコンピュータに入り込んだり、ネットワークの情報を加工することで、発信者の本来の意図とはまったく異なる内容を受信者が受け取るように細工する。
URLのホスト名に、著名企業や組織を連想させる名称の利用権を取得してしまい、利用者に誤解を生じさせるようなページを公開する。
Webページの内部に他人のWebページを埋め込み、あたかも自分のページの一部であるかのように利用する。
偏った情報を流すページやあたかも別人であるかのようなページを公開する。
フォームのやりとりなどから、プライバシー情報を盗んだりそれを犯罪に利用する。また傍受した情報を電子的に書き換える。
これらはネットワーク上に限った問題ではありませんが、世界中からアクセスできるインターネットだからこそ問題が増幅されているともいえます。

演習 1

  1. 検索エンジンを利用してあなたの得意分野についてのWebページをいくつか探し、そのページの情報の信用度を検討してみましょう。
  2. 自分でWebページを開設する際に留意すべきことを考えてみましょう。


2. 電子メール(e-mail)

インターネットを介したメディアで最もメジャーなもののうちのひとつです。携帯電話の普及でパソコンを持っていない人でも使うようになりました。電子メールには郵便と異なるつぎの特徴があります。 すぐに届く上に、文章や画像を用いて確実に相手に用件を伝えることができます。企業間、個人間でも電子メールはすでにかかすことのできないコミュニケーションツールになっています( 電子メール活用サイト )。身近なところでは、就職活動でのコンタクトも専ら電子メールを介したものになっています。

個人間では、口で直接は言いにくいことを文章にしておくる場合にも用いられます。文字でのコミュニケーションのみで成り立つ「メル友」と呼ばれる交友関係も生まれていますが、その関係の希薄さを危惧する声も聞かれます。感情の伝わりにくい電子メールでの意思疎通を潤滑に行うために、顔文字も利用されます (^_^) 。また、その匿名性から 「出会い系サイト」 などと呼ばれるサイトを利用した犯罪が多発していることも事実です。

一方、多人数あてに同時にメールを送信できるため、メールマガジンメーリングリスト といった新しい形式のコミュニケーションも生まれています。少し前には小泉首相が メールマガジン を発行して話題になりました。

また、電子メールにファイルが添付できるために、ウィルスソフトを添付したメールが送られてくることがあります。ウィルスの感染はメールを介したものが大部分を占めています( 日本ネットワークアソシエイツ )。

演習 2

  1. メールマガジンやメーリングリストについて調べてみましょう。できれば、実際に購読などをしてその利用価値を確かめてみましょう。
  2. メールを介して感染するウィルスにはどのようなものがあり、どのような特徴をもっているのでしょう。


3. 電子掲示板(BBS)

個人的な趣味の集まりのサイトや企業でもアンケート用などに設置していることがあります。掲示板はメールとは異なり、自分の書いた内容は特定の相手ではなく、そのWebページを訪れたすべての人が読むことが可能になります。このことを利用してたくさんの掲示板カテゴリを用意し、同じ趣味や興味をもつ仲間との交流を目的とした コミュニティもつくられています。電子メール以上に匿名性は強く、本名を使わずハンドルネームとよばれる独自の呼び名が用いられます( 掲示板における人格のお話 )。

日本の中でその最たるものが2ch(2チャンネル) でしょう。その影響力は計り知れず、2chにおける AA(アスキーアート) やその独特の語り口は感染性すら感じてしまいます。ネチケットが守られているかは疑問ですが、独自のルールのもとで統制が取られているようです。最近では、2chのキャラクタ「オマエモナー」を商標登録しようとした大手企業が2chユーザの猛抗議ですぐに申請を取り消した事件がありました。

演習 3

  1. Yahoo掲示板 の中で自分の興味のあるコミュニティの掲示板へ行って実際に書き込みをしてみましょう。その際はネチケットを厳守してください。
  2. AAに挑戦してみましょう。
  3. "掲示板の底辺"と呼ばれる2chの世界に触れてみましょう。

4. チャット(chat)

掲示板とよく似ていますが、こちらはリアルタイムな文字での会話を楽しむためのコミュニケーションツールです。大勢で楽しむオープンなチャットや特定の人間と内緒話をするようなことも可能です。自然な会話を楽しむためにはそれなりのキー入力能力が求められます。

また、メッセンジャーICQ と呼ばれるソフトを使えば、ブラウザを介さず相手の状態を確認しながらのチャットが楽しめるようになります。

通信速度の向上によって、現在では電話のようなチャット( ボイスチャット )やテレビ電話のように画像も見えるチャット(ビデオチャット )も登場しています。IP電話 の登場などを考えると今後は電話代も一定料金になっていくものと思われます。

演習 4

  1. チャットを楽しめるようにブラインドタッチを覚えましょう( タイピングワールド )。
  2. ICQで友達と遊んでみましょう。
  3. マイクがあればボイスチャットも試してみましょう。電話と比べてどのような利点・欠点があるでしょう。

5. インターネットオークション

WWWを利用してネット上のオークションを行っています。現段階では Yahooオークション が最も有名でしょう。WWWの特長を活かして、普通では手に入らないようなものを見つけることができたり、いらなくなったものを多くの人に対して出品することもできます。しかし、お金が絡んでくる問題であり、商品が写真1枚からしか判断できない点や匿名性からいくつかのトラブルも生じています。

課題 5

  1. 実際にオークションに出品しようとした場合、商品をどのようにアピールするとよいでしょう。
  2. オークションで生じるトラブルを考えてみましょう。

6. ネットワークゲーム(オンラインゲーム)

今までのコンピュータゲームは一人、あるいは同じ場所にいる数人で遊ぶことしかできませんでした。しかし、インターネットを介したゲームのシステムが確立し、まったく知らない遠くのひとと遊ぶことも可能になりました。ネットワークゲームはジャンルを問わず様々なものがありますが、たいていのものはコミュニケーションの支援用にチャット機能もそなえています。

現在、社会的に心配されているのはネットワークRPGによる仮想世界依存の問題です。アメリカ、韓国ではすでに問題になっており、ネットワークRPGの世界から抜け出せなくなり、現実生活をないがしろにするケースが増加傾向にあるそうです( エバークラック )。

演習 6

  1. フリーのネットワークRPGで遊んでみて、その中毒性を検証してみましょう。
  2. 日本でも家庭用ゲーム機でのネットワークゲームの販売が始まりました。そこで予想される社会的変化について考えてみましょう。

7. ピアツーピア(P2P:peer to peer)

ピア・ツー・ピア・コンピューティングとは、ネットワークで接続されたコンピュータ(主にPC)同士で直接やり取りしあうことにより、コンピュータ・リソース(CPUパワーやハードディスクのスペース)や各種サービス(メッセージやファイルを交換するサービスなど)を共有する新しい技術です。インターネットの普及によって世界中のコンピュータが互いに通信できるようになりましたが、このピア・ツー・ピア・コンピューティングの登場によってコンピュータ同士の共同作業さえも可能になります( 無限の可能性 )。

しかしながら、WinMX や Winny のようなファイル共有ソフトを用いた違法ファイル交換や犯罪などが行われており、実際にはまだ問題の多い闇のツールです。個人的な見解ではありますが、P2Pの技術を合法的な形でより広く活用していくためには、ソフトウェアにおける著作権のあり方を根本的に考え直していく必要があるのではないのでしょうか。

演習 7

  1. P2Pを使った新しいコミュニケーションツールのアイディアを考えてみましょう。
  2. ファイル共有ソフトの問題を解決するにはどうしたらよいのでしょうか。

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