例えば、誤字を修正するという課題を選んだとしてする。
赤鉛筆で誤字に印がつけられている紙の原稿が手元にあり、それを見ながら、
ワードプロセッサーの中に既に入力されている原稿を修正するという課題です。
作業は次のように分解できます
(A) キイボードを使う場合。
方式(A)の2について詳しくみてみましょう。
横40列、縦20行の画面で特定の位置から特定の位置までキイ
操作でカーサーを動かすのに必要な時間はどれぐらいかかるかを推定します。
修正箇所がランダムに現れるとして20列10行カーサーを動かすのが平均になり
そうですから、この時間を求めることにします。
カーサーを一文字分動かすのに要する時間はだいたい同じだと考えられますから、それを(20+10)倍することに します。カーサーを一文字動かすのにようするキイ操作の時間はどれぐらいでしょ う。これはすぐには分かりませんが、自分で実験してみたり、関連する研究の資料 から情報を得たりすることで、実際の数を得ることができます。
1秒間に5文字移動できるとすると 0.2 x (20+10) = 6 で6秒かかることになります。さらに文字 を削除するのに削除キイを押す必要があり、これを2文字削除するとして0.4秒か かるとしておきましょう。
一方、マウスでポインターを操作しカーサーを移動させるのにかかる時間を推測してみましょう。ワードプロセッサーの画面が20cm x20cmの正方形として誤字のあるところまで平均14cm ポインターを移動させるとします。これに要する時間はどれぐらいかかるでしょうか。この数も実際に自分でやってみればおおまかな検討をつけることができます。
また、The Psychology of Human-Computer Interaction のような参考書を見れば関連するデータが見つかります。この本によれば1.4秒位の数が出ています。このようにポインターなどを所定の位置に移動する課題を一般にポジショニングの課題と言いますが、ポジショニングでは移動する距離だけでなく、目標の大きさも問題になります。目標が小さければ、それだけ時間がかかることが想像できるでしょう。(ポジショニングに関してはFittsの法則がよく適合することが知られていますから、それを使うこともできます。)
カーサーの移動は目標の場所にポインターを動かして、さらにボタンをクリックすることが必要です。この時間を0.3秒としても、全体で1.7秒しかかからずマウスの方がずっと効率がよいと推測できます。
次に、マウスで修正すべき文字列を選択する時間を推定しましょう。これもポジショニングの課題と見ることができます。数文字であれば1秒以内で選択できるでしょう。
こうしてみるとマウスを使えば3秒以内に前述の2と3の操作が終わるのに対して、キイで操作する場合は6.4秒かかりますから、マウスの方がずっと効率が良さそうであることが分かります。ただ、マウスの場合はキイボードからマウスに手を移動させる時間を足す必要もあるのでこれを合計1.5秒としても4.2秒ということになり、まだマウスの方がずっと早いということになります。
上記のように机上で計算するだけでもおおよその目安をつけることができます。基礎となる操作に要する時間が概数ですから、それほど正確ではないかもしれませんが、おおよその見当をつけることはできます。ユーザーに課題を行ってもらい時間を実際に測定する実験に比べて、このような課題分析とモデルによる評価はコストがかからず早く結果が出せるという利点があります。しかし、基本的な操作に要する時間などがある程度正確に推定できないと誤った結果が出てしまう恐れがあります。簡単な実験を併用して、結果を確認するというのもよいやり方でしょう。
参考
Fittsの法則
ポジショニングに要する時間をTとし、距離をD、ターゲットの大きさをSとすると次の式が成り立つ。(Welfordによる修正版)
T = IM log2 (D/S + 0.5)
但しIMは定数。